熊本県玉名市の自然栽培米農家、前田英之(まえだ・ひでゆき)さんは、無農薬・無肥料に加え、自家採種でミナミニシキを作られています。
多くの自然栽培米農家が重要視して実践している自家採種。
前田さんは30年以上も取り組んできました。
種子法廃止、種苗法の改正により種の動向に注目が集まりつつある昨今ですが、種の育成者権が認められていない品種に関しては、自家採種を続けることが可能です。今回のミナミニシキは、自家採種が可能です。
自然栽培において、なぜ自家採種を重要視しているのでしょうか?
前田さん独自の見解を織り交ぜながら、解説します。
(参考:農ledge「種苗法による自家増殖原則禁止の理解と誤解」http://nou-ledge.com/2018/06/08/180608_seed2/)
<目次>
ミナミニシキの自家採種にこだわる前田さん
熊本県玉名市で無農薬・無肥料で自然栽培米ミナミニシキを育てる前田英之さんがおられます。
ミナミニシキをご存じでしょうか?おそらく多くの方が知らないかと思います。
ミナミニシキは、1967年に九州で生まれたお米です。
現在流通している多くのお米の品種はコシヒカリの遺伝子を含んでいるため、粘りや甘みのある食味を特徴としています。しかしミナミニシキはコシヒカリの遺伝子を含んでおらず、食味は硬質であっさりしています。
1987年には熊本県のお米全体の53%をミナミニシキが占めていました。しかし、コシヒカリ系品種が主流となり、徐々に生産は減少し、現在は、ほぼ栽培している人はいません。
前田さんはもともと、ヒノヒカリを作っていました。しかし「人に活力を与えるパワーフードとなるお米」を追求していた前田さんが出逢ったのが、昔の稲の特徴を持つミナミニシキでした。
自家採種をする目的とは!?
自家採種とは、収穫時に実りの良い稲を選んでその稲から次年度用の種を採ることです。
一般的な栽培では、毎年、種子更新された種を買ってきて播種をします。この方が生育が揃い均一な生育が期待できます。
一方、自家採種は代々その土地で実った作物の種を次年度に播種します。こちらは生育は均一ではありません(長年しっかりと種取りをすると均一になってきます)。
自家採種をすると、その土地で育った遺伝情報が組み込まれていくため、年々その土地に合った作物が実ると言われています。
さらに多くの自然栽培米農家が、自家採種を重要視している理由は、下記の2つを種籾から除くためです。
1) 薬毒(農薬の毒)
2) 肥毒(肥料の毒)
自然栽培米農家の安心安全へのこだわりは、種籾の段階にも及んでいるんですね。
農薬や肥料の影響を受けていない自然栽培の田んぼで自家採種を続けると、その環境で生き抜いてきた遺伝情報が含まれた純粋で力強い種籾ができると考えているのです。
前田さんが自家採種にこだわる他の理由
前田さんは、30年にわたりミナミニシキを自家採種してきました。しかし前田さんは、先述した自家採種の理由とは異なる視点を持って自家採種しています。
それは、「自家採種した種籾に土着の菌が引き継がれる」と考えているのです。
前田さんが、農薬を使わずにミナミニシキを栽培するのは、土着の微生物を豊かにするためだと言います。
この微生物への視点が前田さんのミナミニシキが独自のお米と言われるゆえんです。
微生物を守ろうとすることで土壌を初めとする自然環境の生き物が豊かになります。
一つの種籾から実った穂から、また次の種籾が生まれる。この種籾には、前田さんの田んぼの微生物も付着して引き継がれると考えているのですね。
ミナミニシキの微生物たちは腸を活性化させる?
前田さんは目に見えない微生物たちを、ミナミニシキを通して体に摂り入れることで、腸に良い影響を与えていると考えています。
人の腸には、100兆個もの腸内細菌がいると言われ、これらの細菌は免疫細胞を活性化させる働きがあると言われています。腸内細菌は、人の健康を保つ上で欠かせない菌なのです。
前田さんは、自家採種の種から生まれたミナミニシキを食べることは、腸内環境を整えると考えています。
自然栽培米ミナミニシキが人の体に活力を与えるパワーフードだと感じた理由は、昔ながらのあっさりした硬質なお米に加えて、田んぼの微生物たちが免疫力を上げてくれるからなのです。
【前田英之が自家採種を続ける理由】
まとめ
微生物の働きは未知数です。
例えば、土壌に住む日和見菌は、体内に入ると人間の免疫調節、ストレス耐性に効果があると研究結果が発表されています。つまり、土いじりは、人の精神や免疫に影響を与えると。
(参考:土に触れる生活が心身の健康につながる https://wired.jp/2019/06/10/healthy-stress-busting-fat-found-hidden-dirt/)
私たちの体の健康は、微生物の働きで成り立っているのです。
農薬や化学肥料を使用した土では、微生物の多くは死滅します。実際に土を触ると微生物が死滅した土の硬さを感じれるでしょう。
前田さんは自身の自然栽培において、「微生物の営み」をキーワードにしています。
微生物を守るために、無農薬・無肥料を徹底して、種に微生物が付着することも考慮して毎年、自家採種を行っています。
私たちは、微生物の営みの中で生まれた食べ物こそが人間の体内に良い影響を与えると考えています。